そんな中、私も先週12日に東京工科大学にて行われました『はじまりのみち』試写会と、原恵一監督・細田守監督・樋口真嗣監督が登場されたシンポジウムに参加してきました。一足早く『はじまりのみち』を鑑賞してきました。初実写とは思えないくらい、本当に素晴らしい作品で、涙が出ました。公開前なので、詳しい感想はまた公開後に書きたいと思いますが、個人的に今年一番の感動作と言ってもいいと思います。そして、木下惠介監督の作品を改めて観てみたいという思いが強くなりました。原監督の狙いは見事に成功していると思います。
試写会のあとに、原監督・細田監督・樋口監督と、コーディネーターである、東京工科大学の濱野保樹教授が登場され、シンポジウムが始まりました。濱野教授といえば『アニメーション監督 原恵一』を編著された方としてもお馴染みです。
細田監督と樋口監督は、劇中で木下監督一行が泊まった宿(奈良井宿)のロケのときに訪問されたそうで、このとき原監督は、初めての実写でずっと緊張しっぱなしだったのが、二人が来て一気に緊張が緩んだそうです(笑)。やっぱり仲が良いんですねえ。
『はじまりのみち』の感想を聞かれた細田・樋口両監督はこのように語ってくれました。
細田監督「実写ということについては若干不安なところもあったけど、実際に観てみたら、今までの原作品と寸分変わらぬ素晴らしい作品。僕の作品を観て、実写でも撮れるんじゃないかと言う人がいるけど、アニメと実写では、リアリティの置き所が全然違う。作り方が全く違うにもかかわらず、『はじまりのみち』は今までの原作品と寸分たがわない原恵一スピリットに満ち溢れていたのが驚き。」
樋口監督「撮影現場に行ってものすごく安心した。スタッフが監督を愛して支えてくれていた。贅沢な製作環境ではなかったと思うが、的確な画作りと芝居がリッチ。映画を作るってこんなに素晴らしいことだと感じた。自分の仕事はなかなか俯瞰して見ることができない。今見ても10年後、20年後見ても語り継がれる映画になっている。」
一方、原監督は、今回初めて実写を撮ることになった経緯についてこう語ってくれました。
原監督「いつかは実写をやりたいと思っていたわけではない。ただ、木下惠介監督にもっと光を当てたいとずっと思っていたし、こういう企画は断れないと思った。初めての実写は戸惑いばかり。実写は大変な撮影のシーンの際に、スタッフからの要望があった時だけ画コンテを作成する、という感じ。カット割りも現場で決める。カメラマンの池内さんがいろいろ提案してくれたので、だいたいそれで撮ってもらった。実写はアニメと違って天候の影響も受けるので、そういう意味では大変だった。」そして今後も実写をとるかどうかについては、「自分がどういう判断したらいいのか最後までわからなかったし、調子に乗ってまた実写をやる気にはなれない」とやや否定的でした。
これに対して細田・樋口両監督は、「原監督が実写に行けば、実写は製作期間が短いので、毎年原監督の作品が見られる(笑)」と歓迎的な様子。このときばかりは原恵一ファンとしての顔をのぞかせたお二方でした。
シンポジウムのレポについては、映画公式サイトやニュースサイトにも上がっていますが、そこでは触れられていなかった話も。
(※以下は映画のネタバレも含みます。ご鑑賞後にお読みになることをオススメします。)
・ラストシーンに木下監督作品の名シーンを入れたわけ
原監督「木下監督は結構パンクでロックな作品を作る人。自分も木下作品みたいな過激なことをやろうと思ってやった。正直それをやるのは怖かったが。編集で実際に好きな作品のシーンを切るというのは相当辛かった。」ちなみに映像の使用にあたって、肖像権をとるのが結構大変だったそうです。
・田中裕子さんの一言で生まれたシーン
原監督「(疎開先に向かうときの)母の衣装について、始めは寝間着でいいと思っていたが、衣装合わせの時に田中裕子さんから、『息子との久々の外出になるわけだからちゃんとした格好にするはずだ』という意見が出されて、実際に撮ってみたら本当にその通りだと思った。そこまで考えが及んでいなかった。」ちなみにそのシーンは『戦国大合戦』のあのラストシーンを彷彿とさせるもので、樋口監督からも同様の指摘をされていました。
「田中さんが『寝たきりでずっと家の天井ばかり見ているから、たまには空だって見たいじゃない』というのを聞いて、そこから思いついて急遽たまが青空を眺めて涙を流すシーンを追加で撮った。最初は疎開先に向かう途中のところで入れようと思ったが、結局最後のほうに入れた。
そして気になる今後のお仕事についてですが、現在原監督はアニメの新作の製作を進めているとのことで、アニメをやめることはないとわかり安心しました(笑)
すでに絵コンテを描き始めているということですが、今作はカメラマンさんにカット割りを決めてもらったのに対し、アニメは全部自分で決めなければならないので、なかなか絵が決まらなくて辛いということを話されていました。いつになるのかはまだわかりませんが、アニメの新作楽しみです。
最後に原監督は「初めて実写をやって、この年でこんなに初めての経験とプレッシャーを感じることがあるとは思ってなかった。それでもやれてよかったし、できあがった作品は、似たような作品が全く思い浮かばないものになった。木下作品のような過激さを持った作品になった気がする」と、作品の出来に自信をのぞかせるコメントでシンポジウムを締めくくりました。
今回は日帰りという強行スケジュールで、試写とシンポジウムに行ってきましたが、映画も素晴らしかった上に、原監督・細田監督・樋口監督お三方の仲睦まじい姿も見られてとても楽しいひとときを過ごせました。お三方のトークはぜひまた聞きたいですね。素敵なトークありがとうございました!
そして映画のほうも、公開後にまた劇場で鑑賞したいと思います。
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