2019年04月25日

【原恵一ヒストリア(4)】あの時代を反芻し、今を生きる。~オトナ帝国へ至る道(2)~『クレヨンしんちゃん』

最新作『バースデー・ワンダーランド』の公開と、原恵一監督の還暦を記念し、原監督のこれまでを振り返る解説・コラム記事を公開します。ファンにとっては常識レベルの話も出てくると思いますが、復習も兼ねてお読み頂けると幸いです。なお、文調はいつものとは異なりますのでご了承ください。また記事内は敬称略としております。
  1. アニメ演出家としての原点『ドラえもん』
  2. 初監督作品での葛藤と挑戦『エスパー魔美』
  3. ネタがない。その苦しみから始まった。~オトナ帝国へ至る道(1)~『クレヨンしんちゃん』
  4. あの時代を反芻し、今を生きる。~オトナ帝国へ至る道(2)~『クレヨンしんちゃん』


【原恵一ヒストリア(4)】あの時代を反芻し、今を生きる。~オトナ帝国へ至る道(2)~『クレヨンしんちゃん』

万博をネタに映画を作ると決まってからは、原は万博関連の資料を集め始める。最初はほんの参考程度だったかもしれない。が、調べていくうちに、彼の中で何かが変わり始めていく。あの万博は何だったのか、少年時代に抱いた万博への憧れはいったい何だったのか。同じ時代を生きたからこそ、懐かしい気持ちが湧き上がってくるとともに、原はそれを反芻していく。万博記念公園にも足を運ぶほどに、次第に原はどんどん万博に夢中になっていく。そんな監督の姿に周りは引いていき、このままで大丈夫なのかと不安がる。しかしそんな周囲の不安をよそに、原は映画を作り続けていった。

やがて、悪役である「イエスタディ・ワンスモア」への思い入れが強くなり、単純な悪役にできなくなってしまった。そこから映画は、これまでとは一線を画す方向へと進むことになる。それは『クレヨンしんちゃん』の映画では無くなる危険性も孕んでいた。これを作ってしまえば自分はクビになる。しかし映画としてはこのほうが絶対にいいはず。原はその覚悟を持って一本の映画を作り上げた。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の完成である。

原が思い入れた「イエスタディ・ワンスモア」のケンとチャコは、現実の21世紀に失望し、人々がまだ未来を信じられた20世紀へ戻そうと、大人たちを懐かしさの虜にしていく。21世紀に向けて抱いていた希望と、失望に満ちた現実。その落差を実感している大人たちが「イエスタディ・ワンスモア」の思想に共感するのは無理からぬ話だ。

しかし、そう昔を懐かしんでいても過去は過去のものでしかなく、子どもたちには「今」と「未来」しかない。だから、しんのすけは、家族と一緒に過ごせる「今」と、綺麗なお姉さんといっぱいお付き合いしたいという「未来」を手にすべく激走する。原は、自身の懐かしい気持ちと真正面で向き合うことによって、何のために自分たち大人が21世紀を生きなければならないのかを提示してみせたのだ。そして映画は多くの反響を呼ぶことになり、原は一躍注目を浴びることとなった。

原は「あの時代はよかった、あの時代に戻りたいと思うのは健全じゃない。あの時代には不自由なこともあったし、残酷なこともあった」と、冷静な視点で昭和という時代を振り返る。が、皮肉にも「イエスタディ・ワンスモア」に呼応したかのように、現実においては昭和ノスタルジーをテーマにした作品が作られ続け、さらには東京五輪、大阪万博と、まるで歴史を繰り返すかのようにビッグイベントが開催される。そして年代がスライドし、平成の終わりと共に、平成時代そのものを懐かしむ風潮まで現れる。新しい時代を迎えてもなお、我々は「過去」にしかすがるものが無いのだろうか。

2010年に原が発表した『カラフル』の映画オリジナルのシーン。
この時代には向いていないという小林真に、早乙女はこう話す。
「向いているかわからないけど、俺は今がいいな。イヤなことあっても今がいい」

今を生きるという原の強い信念は、新しい時代を迎えてもおそらく変わることは無いだろう。

(つづく)


posted by チューシン倉 at 07:00| Comment(0) | 作品評 | 更新情報をチェックする
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