2019年05月10日

『バースデー・ワンダーランド』レビュー(真剣勝負と言うからガチで書きます)

『バースデー・ワンダーランド』の公開から二週間経ちました。公開されてからいろんな感想が聞かれて興味深く拝見しています。ここで、私からも個人的な感想・レビューをここに書き記そうと思います。なお、これから書く内容は、人によっては「応援」という意味からは外れるものになるかもしれません。しかし原監督は、映画はお客さんとの真剣勝負だと公言している以上、私も観客の一人として真剣に答えなければならないと思っています。それがこの答えだと受け取っていただければ幸いです。

※ここから先は文調が変わります。またネタバレも含みますので、ご覧になっていない方は鑑賞後にお読み頂くことをおすすめします。

海外のスタイリッシュさと日本の「萌え」を融合したかのようなキャラクターデザイン

まず、今作のキャラクターデザインについては最初見たときはビックリした。原監督はあまりキャラクターデザインにこだわらないイメージが強かっただけに、今回は思い切って勝負を仕掛けたという印象だった。今回抜擢されたイリヤ・クブシノブ氏は、正直言って筆者はこれまで存じていなかったのだが、彼のデザインを一見すると、海外アニメに見られるスタイリッシュさと、日本特有の「萌え」っぽさが融合したかのようなビジュアルで好印象を受けた。インスタグラムのフォロワー数150万人超という、世界レベルで人気のあるイラストレーターなだけに、国外にも大いにアピールできるという面もあったかもしれない。国・人種・年齢層問わず、幅広い層に訴えかけるという面では、彼の起用は間違っていなかっただろう。

またイリヤ氏は、建築関係のデザインも学んでいたらしく、それを受けて原監督は、アカネが冒険するワンダーランドのビジュアルも彼に任せた。ロシア出身の彼らしく、東欧の雰囲気が色濃く出ているが、独創的な生き物の数々や四季折々の色鮮やかな背景美術には目を奪われた。

クレしん映画のようなエンタメ性、大長編ドラえもんのような冒険ものでは無かった

しかしながら、ビジュアルの素晴らしさとは裏腹に、作品の内容はというと、残念ながら私の期待したものとは違っていた。原監督は、今作を本格的なエンターテインメントと謳っており、それを聞いて私は『オトナ帝国の逆襲』以前のクレヨンしんちゃん映画のような、コメディ、ミュージカル、アクションなどなどバラエティ豊かな楽しい映画になるだろうと期待していた。そこまでいかなくとも、原監督は藤子・F・不二雄先生を敬愛しており、かつては芝山努監督のもと演出助手としてドラえもん映画にも関わったこともあり、大長編ドラえもんのような、ワクワクする冒険ものに仕上げてくれるのではという期待もしていた。

ところが、今作はそのどちらでも無かった。

もちろん楽しませてくれるところもある。しかし、クレしんほどエンタメに振り切っているわけでもなく、かと言って大長編ドラえもんのようなワクワク感があるかというとそれも違う。 全体的に物語が淡々としていて起伏が無く、冒険というよりはむしろ紀行というイメージだ。それはそれで面白みがあり、監督からすれば、従来のファンタジー映画とは違ったものにしたかったという意気込みも感じられる。だが、私も含め観客の求めていたものとは、だいぶズレが大きいように思った。

親子の物語という原監督らしいストーリー。 しかし・・・

とはいうものの、大筋のストーリーラインは、監督らしい地に足のついたものだったと思う。冒頭でアカネは、ハブられることへの不安から、髪飾りを忘れた友達を擁護できず、気まずくなって学校をズル休みしてしまう。

そんな娘に起きた出来事を察したのか、母親のミドリはズル休みを咎めることなく、さらにチィおばさんの家へ行って誕生日プレゼントをとってくるように頼む。これが物語の大きなきっかけとなり、さらに物語が進むにつれ意外な事実も明らかになる。やがて旅を終え、アカネは元の世界に戻ると、ミドリのもとへ帰り母親のぬくもりを感じて眠る。親子の繋がりに始まり、そして帰着していく。業界に入ってから一貫して「家族」や「親子」に寄り添って描いてきた原監督らしいストーリーと言える。

しかし、大筋は良いものの、結末に至るまでの過程がどうも弱い。

原監督がこれまで高く評価されてきたのは、ストーリーテリングの巧さにある。絶妙な伏線の張り方や、物事を俯瞰し本質をとらえた、重みのあるセリフ回し。自分たちの生きる世界を、厳しくもしかし優しい眼差しで見つめ、物語を紡ぎ出していく。そうすることで観客の共感を常に得てきた。『オトナ帝国』や『河童のクゥ』は、そんな原監督の才能が遺憾なく発揮された傑作だった。

ところが、今作はセリフの一言一言に、重みや深みを感じない。特に終盤で、アカネがザン・グにあることを語りかけるシーンは、『はじまりのみち』の木下恵介が母へ向けて気持ちを吐露する場面や、『オトナ帝国』でしんのすけが未来を生きたい理由を語り出す場面を思わせて、監督らしさを感じるも、セリフに重みが無いのだ。

ここでアカネが、ワンダーランドでもっといろんな体験を経ていれば、まだセリフに説得力があっただろう。冒頭の学校での場面を想起させるエピソードがあったっていいはず。物語がもっと面白くなる要素はいくらでもあったのに、それをほとんど活かせていないのだ。

※余計なツッコミだが、ザン・グとドロポが立ち寄るニビの町について、ピポは「近づかないほうがいいですよ」と"フリ"があったにも関わらず、彼の言うとおりアカネたちは立ち寄らなかったのはどういうこと・・・? それと雫切りの儀式のあと、ニビの町にいると思しき一人の青年のカットが挿入されたが、あれはいったい誰!?

原監督はインタビューで『引き算』を意識して映画を作ったと語っている。いろんな要素を盛り込みすぎて、かえって食傷しまう作品は幾度となく自分も見てきたし、引き算を意識することの大切さはなんとなくわかる。だが、今作については、そもそも引いてはいけないところまで引いてしまったのではないかという印象が否めない。本当に原監督はこの脚本で大丈夫だと思ったのだろうか?

企画の経緯・目的がほとんど不明瞭

ここからは作品の内容というより制作過程の話になってしまうが、今作において一番気になるのは、この映画が企画された経緯や目的がはっきりしないということだ。
これまで原監督の作品、特に『河童のクゥ』以降は、企画の経緯や目的をはっきりと明かしていて、出来上がった作品はその目的をきちんと果たしていたように思う。ところが今作の場合、いろんな雑誌やニュースサイトの監督インタビューを読んでも、「多くの人に楽しんでもらえるエンターテインメントを作ろう」という、やや抽象的なものだ。それはそれで大いに結構だが、エンタメを作るにしてもアクションやコメディ、SFなどいろんなジャンルがある中で、なぜあえてファンタジーだったのだろう。

朝日新聞の監督インタビューによれば、原作の『地下室からのふしぎな旅』は、製作委員会の一社であるフジテレビから出てきたタイトルだという。では、フジテレビは幾多の児童文学の中で、なぜこの原作を選んだのだろうか。そして、ファンタジーはあまり好きではないと公言していた原監督に、なぜ白羽の矢を立てたのか。その狙いは一体何だったのか。そういった企画の根幹に関わる部分が、ほとんど見えてこないのだ。それなりに作品に満足できていれば、そんな些細なことを気にする必要はなかったと思うが、今となってはこのあたりにも大きな原因があるように思ってしまうのだ。

もちろん作品の評価について、監督は謗りを免れないことは確かだろう。しかしながら、企画の根幹が曖昧なまま進めていたのなら、これは製作委員会のほうにも大きな問題があるとしか言いようがない。プロデューサーは、企画の経緯・目的についてはっきりと説明して頂きたいのだが・・・。



posted by チューシン倉 at 08:00| Comment(3) | 作品評 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
原恵一監督を応援したい、力添えしたいという気持ちが強いと思いますが、
率直な感想のレビューで、驚きました。

レビュー内容は大筋、私も同じように感じました。

原恵一作品に大切な思いもありますし、
これからも原恵一監督の新作を楽しみにしていますが、
今作に限っていえば、残念な気持ちでした。

これはこれとして受け止めたいのですが、
本作のインタビューなどを拝見すると
原恵一監督が本作に強い自信を持っているように感じるのが
心配になっています。

フリーという立場上、依頼主である製作委員会からの要請など
大人の事情がさまざま絡み合って、いろいろと配慮せざるをえず、
原恵一監督が本当にやりたいことができなかった、
忸怩たる思いの中での作品作りだったということであるならば
消化不良感のある本作の出来・内容は理解できるのですが、
原恵一監督が思い通りにやった結果の本当の自信作だったのだとしたら、
観客と監督の感覚がすごくズレてきてしまっているのでは・・と懸念しています。

次回作に期待したいと思います。
Posted by くろうま at 2019年05月10日 20:27
コメントありがとうございます。
自信作だと仰る原監督の真意はわかりかねるのですが、作り手と観客の感覚のズレが大きくなると、商業作品の監督としてはどうなのかという心配も確かにあります。

とはいえ、他方で好評の声も少なからず聞かれているので、まだそこまで心配するまでもない気もします。
次回作は、もう少し重厚なストーリーを期待したいところです。

> くろうまさん
>
> 原恵一監督を応援したい、力添えしたいという気持ちが強いと思いますが、
> 率直な感想のレビューで、驚きました。
>
> レビュー内容は大筋、私も同じように感じました。
>
> 原恵一作品に大切な思いもありますし、
> これからも原恵一監督の新作を楽しみにしていますが、
> 今作に限っていえば、残念な気持ちでした。
>
> これはこれとして受け止めたいのですが、
> 本作のインタビューなどを拝見すると
> 原恵一監督が本作に強い自信を持っているように感じるのが
> 心配になっています。
>
> フリーという立場上、依頼主である製作委員会からの要請など
> 大人の事情がさまざま絡み合って、いろいろと配慮せざるをえず、
> 原恵一監督が本当にやりたいことができなかった、
> 忸怩たる思いの中での作品作りだったということであるならば
> 消化不良感のある本作の出来・内容は理解できるのですが、
> 原恵一監督が思い通りにやった結果の本当の自信作だったのだとしたら、
> 観客と監督の感覚がすごくズレてきてしまっているのでは・・と懸念しています。
>
> 次回作に期待したいと思います。
Posted by チューシン倉 at 2019年05月11日 20:51
原さんは、脚本を丸尾さんじゃなくて吉田玲子さんとかにお願いした方が良いのではと個人的に思います。
特に今回のようなファンタジーの物語なら、今ちゃんと世に受けるストーリーが描ける人にお願いするべきだったかと

そういう脚本と原さんの演出の組み合わせを見てみたいというのもあります。
クレしんがまさにそうだった思うので。おバカ×真面目な演出

川村元気さんのような、軌道にちゃんと乗せてくれるようなプロデューサーも必要かなと
Posted by まー at 2019年05月26日 19:31
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