大絶賛上映中の『かがみの孤城』のティーチイン付き上映が全3回にわたって開催されることになり、1月21日(土)の立川シネマシティ、1月22日(日)の新宿ピカデリーの回に、私も急遽上京して参加しました。
1回目のティーチインは、原監督と、本作の企画・プロデューサーを務めた松竹の新垣弘隆さんが登壇されました。新垣さんは、原監督の初めての実写監督作品『はじまりのみち』でもプロデューサーを務められており、その縁で原監督に『かがみの孤城』のアニメ映画化をオファーされました。
トーク冒頭、司会より、5年前に企画が立ち上がりそれから公開されての今の心境を聞かれると、原監督は「(自分の監督作品としては)『クレヨンしんちゃん』以来、20年ぶりの興行ベストテン入り(※筆者註あり)。目に見える形で反響をいただいてホッとしている」と一安心した様子。続けて「最近は100億超えの映画がいくつか出てるけど、1億稼ぐだけでも物凄く大変なんですよ」とショウビズの世界の厳しさを説いていました。
一方、新垣さんはSNSでお客さんの反応や感想を毎日チェックされていて、スマホを持っていない原監督にそれを見せると、とても良い反応されていたと明かしました。
続いて文庫本にして上下巻ある原作を、映画としてまとめるのに難しかった点を聞かれると、原監督は「全部やれば前後編になるところを、2時間にしろっていうのが無茶だ」と新垣さんからの要求に難色を示しながらも、こころちゃんの話を中心にしてまとめていったことでなんとか2時間以内に収めました。実際には116分とやや尺が余った点に新垣さんは驚かれ、原監督は「時間を収めるのは慣れている」と得意げに話されました。
司会から一通り質問あったのち、お客さんからの質問コーナーに移りました。
※以下、質問と原監督の回答は筆者が要約してまとめたものになります。実際の発言内容とは異なる部分もあるかと思いますのであらかじめご了承ください。
Q. フリーになってから作品ごとに制作スタジオが変わられていてやりにくいと感じられるところは?
本当は同じスタジオのほうがやりやすいとは思う。毎回のように初めての方に出くわすので、もう自分は「流浪の監督」だと思う。
Q. こころちゃんが駆けていくシーンは、『オトナ帝国』のしんちゃんを意識したのか?
意識はしていなかった。こころが最初に抱いた自分の黒い願いを捨てて、アキを救うために前に進む大事な場面だけに、絵になると思った。このシーンの原画を描いたのは、日本を代表するアニメーターの井上俊之さんで、駆けていくこころをカメラが回り込んでとらえるという高難度のシーンを、見事に描いてくれた。
Q. 演出するうえで、やってはいけないと決めていたことはあったのか?
今回は「やっちゃいけない」と言われたことはなく、残酷なところはしっかり見せようと思った。アキが義父に襲われそうになるシーンは、本来ならやめましょうと言われそうだが、昔の映画であったシネカリグラフ(顔にノイズを乗せる表現)を今の技術で再現して、よりアキの気持ちを表現した。彼女の中では義父は顔無しの存在だから。
Q. 願いの部屋を赤色で表現された理由は?
(「よくぞ聞いてくれました」と反応しながら)大時計の歯車が回っている扉の外の部屋は緑色だったので、その補色として赤を使ったのと、もう一つは自分が好きなスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』に出てくるハルの中枢部の赤い照明の部屋が美しくて、それを自分なりに再現したくてやってみた。
Q. もう一度観るとしたら注目してほしいところは?
新垣P「リオンとオオカミ様が別れた直後の病室のシーン、最初観たときは回想と思っていたけど、ミオからすれば現実に帰ってきた場面になるわけで、それに気づいたときはすごく切なさを感じて泣けてしまった」原監督「アフレコのときに思いついて、オオカミ様の最後のセリフ(「善処する」)は、オオカミ様(芦田愛菜)ではなく実生(美山加恋)に演じてもらった。あと冒頭(こころの教室のシーン)で、矢島晶子さんにしんちゃんの真似をやってもらった。声優が代わっているので、矢島さんには少しヘタな感じで演じてもらった。聞き逃した方はぜひ。」
Q. 効果音や鏡の音の描写は、どういうイメージで作ってもらってたのか?
鏡を通る時にはガラス質の音が欲しいという注文をした。上手くいったと思ったのは、こころが願いの部屋の鍵を開けるときに、大時計の歯車の音を消してもらった。特別な鍵であることを強調するために演出した。次観るときがあれば注目して聞いてもらいたい。
Q. エンディングについて
いつもは黒バックでロールにするところだが、脚本の丸尾みほから、リオンを見守る実生のその後を入れても良いんじゃないかという提案があり、辻村さんからもOKをいただき、板(全画面)でカットを入れる形にした。
そしてQ&Aを終えたあと、高山みなみさん演じるマサムネが発したあのセリフについてのエピソードにも触れられました!
高山みなみさんのセリフは、台本には当初無くてアフレコのときに思いついて演じてもらった。決してお遊びではなく、マサムネの「真実はいつもひとつ!」のセリフに、スバルが「なにそれ?」と返すのはトリックの伏線。スバルの時代には『名探偵コナン』は無いから。そういう理屈で高山さんに説明したら快諾してもらえた。オフセリフならアフレコの段階でも変えられるので、思いついたことがあれば、いつもギリギリで変えてたりする。
お話はまだまだ尽きない様子でしたが、残念ながら時間が来てしまいティーチインは終了。原監督は今回のトークのために、『かがみの孤城』のアフレコ台本のほか、『はじまりのみち』や『河童のクゥと夏休み』の台本も持参されていたのですが、また次の機会にじっくり見せてくれると嬉しいですね。
今回は質問されたお客さんの熱量も高く、質問の前にそれぞれ思い思いの感想を原監督に送られていたのがとても印象的でした。確実に観た人の心に響く作品になったと改めて実感しました。原監督、新垣さん、素敵なトークをありがとうございました!
※筆者註:と監督は仰ってましたが、実は前作『バースデー・ワンダーランド』も初週10位で一応ベストテン入ってます。