2023年01月24日

『かがみの孤城』原恵一監督×富貴晴美さん ティーチイン上映@新宿ピカデリー

1月22日(日)新宿ピカデリーにて、2回目の『かがみの孤城』ティーチイン付き上映が行われ、この回は原監督と、音楽を担当された富貴晴美さんが登壇されました。富貴さんは『はじまりのみち』以降現在に至るまで、原監督作品の劇伴を毎回担当されており、原監督が最も信頼を寄せるスタッフの一人です。

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トークの冒頭、原監督は、昨日と同じくチェック柄のシャツを着てきたのに加え、お昼に小津安二郎監督が好きだったという新宿中村屋カレーを食べてきたと茶目っ気たっぷりに挨拶(笑)
それから司会より、今回で4度目のタッグとなる富貴晴美さんとの出会いのきっかけや音楽の魅力について聞かれました。

原監督は初めての実写監督作品『はじまりのみち』で、劇伴の作曲を誰にしようか考えていたところ、プロデューサーから『わが母の記』の音楽を手がけていた富貴さんを推薦されました。実際に映画を観たところ、バッハのような重厚感のある音楽が印象深く、ぜひやってもらいたいと思い、富貴さんとお会いしたところ、若い女の子と知って驚いたそう。それから『はじまりのみち』の最後で流れるメインテーマを作曲してもらい、それを毎晩聞くほど大変気に入り、以降ずっと一生富貴さんで行くと決めたそうです。メインテーマは、なかなか監督のOKが出ず苦戦し、大晦日の夜にようやく完成したそうで、正月過ごせないんじゃないかと富貴さんは当時を振り返ってました。

今回の『かがみの孤城』のメインテーマも、10回以上リテイクがあったという富貴さん。お互いの仲は良くとも、原監督は仕事には厳しく「この曲は7人の魂を救えていない」と厳しいダメ出しを受け、富貴さんは内心「私の魂も救ってよ~」と思ったそうで(笑)
12曲目にしてようやくメインテーマが完成し、女性ボーカルの声が入り、力強い曲調になったことでカタルシスを感じられるシーンになったという原監督。『西郷どん』にも参加されたシンガーソングライターの城南海(きづきみなみ)さんにボーカルをお願いし、力強い歌声と優しい歌声の2パターンで歌ってもらい、最終的には優しい歌声のほうが採用されました。また、台本の段階では、願いの部屋に入ったこころがアップになってすぐに音楽に入るところだったのが、実際タビングの時に付けてみると音楽の方が先行してしまう感じがあり、そこで「アキちゃん」と言ったところから音楽を入れるように修正したところ、自然な流れになったと、メインテーマ完成に至るまでの苦労を明かしてくれました。


そして、原監督が富貴さんの功績として最も評価したのが、こころが6人の回想を見るシーンでかかる「全員の真実」という9分半にも及ぶ長い曲。こんなに長い劇伴は世界最長ではないかと豪語する原監督は、曲の詳細を熱く解説。リオンの回想で、病室で実生と会話するシーンでは、会話を聞いてもらうために、音楽のトーンを抑えてもらうなど調整してもらった一方、ミオが亡くなり仏壇の前のシーンに変わったところへピアノの音が入るところには、「なんてニクイ演出なんだ」と、富貴さんの絶妙なセンスを評価していました。


富貴さんの音楽について熱く語っていた原監督でしたが、時間が少なくなり、ようやくお客さんからの質問コーナーへ。
※以下、質問と原監督の回答は筆者が要約してまとめたものになります。実際の発言内容とは異なる部分もありますのであらかじめご了承ください。

Q. 最後のシーンで、アキ=喜多嶋先生が心の教室でこころに会うが、あれは記憶が残っているということなのか?
原作では「ついにこの日が来た」というセリフがあり、そこから着想を得て、記憶が戻ったわけではなく、運命みたいなものを感じたというニュアンスで描いた。(大林宣彦監督の『時をかける少女』のラストのオマージュなのかと聞かれて)あれはいいラストだったし、そう受け取ってもらっていいし、観客に想像の余地を残すほうがいいと思う。」

Q. 原監督はよくエレキギターの「ギュイーン」という表現をよく使われている印象がある。今回はアキの義父が登場するシーンで使われたが、その狙いや意図は?
劇伴はストリングスが多いが、エレキギターが入ると違和感が生じるので、違和感を出すために意図的に入れている。富貴さんの所属音楽事務所の社長からも「原さんはエレキ好きですよね」とよく言われる(笑)

Q. ラストシーンについて
リオンもアキと同じく、記憶がはっきり残っているわけではない。オオカミ様は「善処する」とは言ったが、確約ではないので。リオンは誰かが来るような気がして待っていて、そこへ足が止まりそうなこころを見かけて、無意識に自分が行かなきゃと思って声をかけたというニュアンスで描いている。こころも記憶が残っていないので、最初は戸惑いつつも、無意識のうちにリオンの優しさを受け入れている。
冒頭はこころの重い足取りで始まり、軽やかに歩いていくカットで終わらせようと決めていたので、それに向かって絵コンテを描いていった。富貴さんには派手で力強い歩みに合わせた劇伴を作ってもらったが、絵よりも5~6秒オーバーしてしまった。でもそのおかげで、絵がなくなっても曲の余韻が残って終わる良いラストになった。こういうところがあるのが富貴さんとやる醍醐味。

Q. 実生の仏壇の前でリオンの母が「あなたは本当に元気でいいわよね」と言ったのは、どういう心境からそうなったのか?
原作にも詳しく書かれているが、実生という優しかった娘が若くして亡くなってしまい、その死をなかなか受け入れられず、対象的に元気なリオンを見るのが辛かったからだと思う。ハワイに留学させたのは、彼を遠ざけるため。

まだまだお客さんからの質問はたくさんあった印象でしたが、残念ながらQ&Aは終了。締めの挨拶で、まずは富貴さんから「傑作ができたと思っています。沢山の方に観てもらえたら嬉しい」と述べた上で、自らも幼少期は不登校だったことを明かし、「家で映画ばかり観ていて、だからこそ今の仕事に繋がっていると思います。辛いときは逃げてもいいよ」とエールを贈り、これに原監督も「そのとおり。逃げてもいいよ」と後押しされました。

続いて原監督は、富貴さんと初めて組んだ『はじまりのみち』も是非観てほしいとコメント。さらに『すばらしき映画音楽たち』というドキュメンタリー映画に触れ、ハンス・ジマーが手がけた『ダンケルク』の劇伴の凄さを語るなど、もう時間が迫っているのに映画音楽についてさらに熱弁を振るっていました。原監督もまだまだ語り足りない様子でしたので、また次の機会にたっぷり話していただきたいですね。

原監督、富貴晴美さん、素敵なトークをありがとうございました!

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posted by チューシン倉 at 08:00| Comment(0) | TrackBack(0) | イベント | 更新情報をチェックする
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