2023年01月30日

『かがみの孤城』原恵一監督×辻村深月さん ティーチイン上映@新宿ピカデリー

1月27日(金)新宿ピカデリーにて3回目の『かがみの孤城』ティーチイン付き上映が行われました。ラストとなる3回目は、原監督と原作者の辻村深月さんが登壇。辻村さんは今や日本を代表する作家の一人ですが、藤子・F・不二雄先生の大ファンとしても知られ、原監督が手がけたテレビアニメ『エスパー魔美』もご覧になっていたといいます。

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本編上映後、お客さんからの拍手に包まれながら、原監督と辻村さんが登壇。原監督は「観た人の熱気かしら?すごく暖かいです」と挨拶。一方、辻村さんは「金曜日の夜に、たくさんの方々に観ていただけて胸がいっぱいです」とコメントしたのち、「第46回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞の受賞おめでとうございます」と原監督に祝福の言葉を贈りました。

原作ファンからも好評の声を頂いていることについて、原監督は「そういうコメントをたくさん頂いているのは嬉しいし、何よりも原作者の辻村さんから『私が思い描いていたものがそこにありました』と言っていただけたことが嬉しかった」と語り、これを受けて辻村さんは「私も原監督のアニメを観て育ったので、こうして大人同士で一緒に仕事できたことが嬉しい」と感無量のご様子でした。

今回は、原監督がアフレコのときに使用した台本がスクリーンにて映し出されました。台本には、脚本には無かったセリフ(注)が赤ペンで書き足されていおり、トーク中、時折台本を見せながらシーンを解説。アフレコの段階でも作品をさらに良くしようと工夫されているのがうかがえました。
これを見た辻村さんは「原作を超えて、こころたちが過ごしていたかもしれない時間を作ってくれて、最後の最後まで妥協なく監督が試行錯誤を重ねてくださったんだなと思ってすごく嬉しかった」と、原監督のこだわりに感銘を受けていました。

そしてトークはお客さんからの質問コーナーに移りました。

まず、自らも不登校だったというお客さんからの質問。「どうしてこんなにも不登校の子の心情を明確に描けたのか」という質問に、辻村さんは、こころが見舞われた出来事が自分にあったわけではないとしつつ、「学校生活が自分にとっては楽しいものではなく、順風満帆な学生生活だったら、学校を舞台にした作品を書かないと思います。デビューの頃からよく学校を舞台にしているのは、きっと何か忘れ物があるから、何度も書いてしまうのかなと思います」とコメント。
一方、原監督は「原作でもウレシノくんが『何もしたくない』と言ってるけど、そこへ『今は何もしない時なんだね』という言葉をかけられる人や友達が周りにいるだけで救われると思う。別にヒーローにならなくたっていい。僕らはほとんどが傍観者になってしまうが、いじめられている人からすると悪になる。ちょっとだけ寄り添ってくれるだけでも嬉しい。僕は映画で、辻村さんは小説を通してやっているから、それを誰かにお裾分けしてくれたらとてもうれしい」と答えました。

続いて「『バカみたい』というセリフが、複数のシーンで使われていて、同じ言葉なのに意味合いが変わっているのが印象的だった」という感想。辻村さんは自分も書いていて驚いたと明かし、「終盤の『バカみたいだよね、たかが学校のことなのにね』という東条さんのセリフは、同じ中学生なのに、外側からの視点を持っている子のことを書けて良かったなと思いましたし、この言葉が心に残ったと言っていただけて嬉しい」とコメント。原監督は、こころと東条さんのシーンは自分も気に入っているといい、「東条さんの『たかが学校のこと』というセリフは、同世代の人に届いてほしいと想った。人生は学校生活を出たあとのほうが長いし、勉強したことなんか社会でほとんど役に立たない(笑) 辛いことはずっと続かないと言ってあげたい」と、悩みを抱える子どもたちにエールを贈りました。

そして図書室の司書として働いているという方からの「たくさんの伏線が張り巡らされた作品ですが、気を配られた点はありますか」という質問。原監督は、こころが歩いて学校へ向かうラストカットに触れ、冒頭のシーンと同じ靴と同じアングルで描くことで、こころの心情の変化を感じてもらいたかったとコメント。また、高山みなみさん演じるマサムネが放つあのセリフについては、「単なる悪ふざけではなく、あれも伏線。後付けだけど(笑)」と台本を見せながら説明。ちなみに元のセリフは「パラレルワールド説、どうなの!?」で、クレームが来た場合に備えて、元のセリフもアフレコしてもらったそうです(笑)

質問コーナーも終了し、締めの挨拶へ。
辻村さんは「映画になって、多くの人に届いて嬉しい」と喜びを語り、「こころたちを原さんにお願いしてよかったです。2回目を観ると気づくことが多く、自分で書いたのに色んなポイントで涙が出ます。何年先にも残るアニメーションになりました」と改めて映画を絶賛。
一方、原監督は「共感してくれる人が多いことを実感している」とコメントし、そこから原監督の好きな『ライ麦畑でつかまえて』のJ・D・サリンジャーに言及。読者から多くの共感を得たことでマスコミに注目され、それをきっかけに、以降社会とは断絶した生活を送るようになったエピソードを披露されました。

さらに、自分はネタバレを気にしないタイプだという原監督が、世間はネタバレを嫌うことを実感したエピソードとして映画『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』を観に行ったときの思い出を披露。映画を見終わって興奮して友達の家に行って「おい、大変だ。ダース・ベイダーはルークの父ちゃんだったんだ!」と言ったら、友達がみんなが固まって「もう見る気がなくなった」んだとか。このエピソードに辻村さんは「当時の原青年の興奮が伝わってくる」とご満悦の様子でした。

だんだん時間が迫り、タイムキーパーから終了を促された原監督でしたが、「オレはまだ諦めないぞ」とトークを強制続行(笑)
「ファンタジーやサスペンスはあまり好きじゃないけど、オードリー・ヘップバーン主演の『シャレード』は名作。ヘップバーンは綺麗だし、犬神家はあれをパクっていると思う」と原監督の映画愛が炸裂。

これに気を良くしたのか、辻村さんから個人的にグッときた場面として、「こころは最初、靴下の状態で鏡に吸い込まれていくんですけど、2回目からは、靴を用意してから行くんですよね。どこかで見たことがありませんか?」と会場のお客さんに問いかけ、「『ドラえもん』の脚本をやったから分かるんですけど、『ドラえもん』でどこかの世界に冒険に行く時に必ずやるルーティンの一つなんですよ。そこを原さんがしっかり描かれているのを見て、『さすが原恵一、抜かりない』と、ものすごく感動しました」と、藤子F先生ファンらしい視点で興奮しながら大絶賛。
また、辻村さんは『ハケンアニメ!』を執筆される際にアニメ業界を取材されており、中には原監督に憧れてアニメ業界に入った方もいたことを明かし、さらにその方から本作の映画を観た感想が、辻村さんご自身も気づかなかったところまでレポートとしてまとめられて届いたんだとか。

原監督は、「『ドラえもん』の演出をやっていたときは、のび太がタケコプターで窓から出入りするときに、急に靴を履いていたりしてなどしてごまかしていたこともありましたが、『エスパー魔美』ではごまかさずにやろうと思い、魔美が家の中で靴を履いてからテレポートをするようにした」と、靴の描写についての裏話を披露。本作と藤子Fアニメとの思わぬ共通点に、私もすっかり唸らされてしまいました。

まだまだ聞きたいところでしたが、さすがに時間切れでトークは終了。マスコミ向けのフォトセッションが行われたのち、惜しまれながらティーチインは終了しました。

全3回にわたって行われたティーチイン付き上映。結局3回とも参加しましたが、こうして公の場で原監督のトークを聞けたのは久しぶりでしたし、お元気な姿を見られて本当に嬉しかったです。どの回もまだまだお話を聞いていたいぐらいでした。
原監督も、まだまだ語り足りないご様子でしたので、この続きは是非ともロフトプラスワンかシネマノヴェチェントあたりで、思う存分語ってくれると嬉しいですね。私はいつでも駆けつけますよ~。

原監督、辻村さん、時間ギリギリまで素敵なトークをありがとうございました!


注:一例を挙げると、最初のシーンで幼少期のリオン(CV.矢島晶子さん)が「『赤ずきん』読んで」とせがむところや、オオカミ様の「善処する」のセリフをミオに代えたところなど。

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<参照記事>



posted by チューシン倉 at 18:06| Comment(0) | TrackBack(0) | イベント | 更新情報をチェックする
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